アレックス・ラミレス監督の退任によせて


TOMORROW IS ANOTHER DAY. | THANK YOU ALEXANDER RAMIREZ

 

私が彼に抱いている思いは概ねこの動画にて示されているような気がする。

「監督」とは、采配だけでなくその態度でも場を支配する。大いにタクトを振るうが、その分決してネガティブには振る舞わない。絶望的な状況でも「まだ可能性がゼロになったわけではない」という、信じるには心許なさすぎるが大切な「建前」を崩さないことで、我々でも簡単に表明できるインスタントで何かを生み出すこともない「本音」に逃げないことで、チームにあるべき品格のようなものを保たせ続けた。
身も蓋もないことを言うのは簡単だ。しかし、何か崇い理想を追い求め進もうとするときに、その手段においてはどんな無様なものでも選んでいかなければならない、そんなときに最後に必要となるのは「建前」ではないだろうか。そして、その「建前」が掲げる理想とか夢とかそういった類のものが現実になる瞬間が見たい、というのが我々がスポーツを観る動機の一つではなかったか。

これを読むあなたがプロ野球をよく見ている人なら、もしかしたら2016年にベイスターズが初めてクライマックスシリーズに進出したことや、翌年にCSを突破し日本シリーズに出場したことを覚えているかもしれない。雨のカープ戦でCS出場が決まった時、私は友達と昼間から酒を飲んでいた。その事実を知り、声を上げて泣いた。大の大人なのに泣きすぎて鼻血を出した。関根大気が阿部慎之助の大飛球をフェンス際でキャッチした後、東京ドームのレフトスタンドで感涙にむせぶ男性がいた。3位からの下剋上を果たすチームを見届けるべくマツダスタジアムから遠く離れたハマスタに試合時と変わらない程の人たちが集まった。濱口遥大の好投や、筒香嘉智の逆転弾、山﨑康晃と柳田悠岐の対決を超満員の観客が見守り、大歓声を送った。
誤解を恐れずに言えば、こういった光景こそ、「夢」だった。短い栄光の時はとうに過ぎ去り、閑古鳥の鳴くスタンドに虚しさを覚えるしかなかった、そんな頃に夢想していた光景が実現していた。

しかし、そんな光景が長くは続かないことも我々は知っている。失意を覚えため息をつく時間のほうが長くなる。「建前」に苛立ち、安い「本音」でちゃぶ台を返したくなる衝動に駆られることの方が今後も多いだろう。
だが、どんな時も一つの態度を保ち続けることが重要だという「建前」も、また我々は知っている。"Tomorrow Is Another Day" - どんな喜びも悲しみも、我々をその場に留まらせるためのものではない。次の試合、来るべき明日、変化していく未来のために、前を向き続ける。その姿勢、その観点こそ、我々がこの5年間に彼が率いるチームを観続けて、得たものではないだろうか。

アレックス・ラミレス監督、5年間お疲れさまでした。